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北アルプスの山小屋で働く話21 北アルプスの山小屋で働く話21

放浪記 第四百六十二話
約3分 · 1,269字

包丁の話

料理の基礎となる包丁の話はまだ続く。

まな板の下には必ず布巾を挟むように教えられた。

そうすることで、余分な衝撃を吸い取り刃を傷めず、滑らずに安定して切り続けることが出来るのだそう。

次に教わったのは、包丁の持ち運び方だった。

大きなキッチンでは、包丁を持ったままテーブルを移動することもある。

そうした時に、適当に持っていては人を傷つけてしまうかも知れない。

それを防ぐためにも決まった方法があった。

まず、右手で持った包丁を水平にしてお腹の前に置き、刃を自分の側に向ける。

そして刃先を左手でつまむことで、包丁を安定させて、誰も傷つけないように持ち運べるというわけだ。

守護

包丁を守るというのも料理人としての使命だった。

切る時には包丁をまな板へと押し付けすぎない。

縦に動かすのはまだしも、決して横に動かしてはいけない。

刃をまな板に当てた状態で横に動かすと、それだけで包丁が傷むという。

まな板から野菜を鍋に移すときなどは、包丁の上下をひっくり返して、背の側をまな板に当てて野菜を鍋へと落とすように教えられた。

あまりにも事細かで面倒くさい教えだったが、全てが理にかなっているので、素直に受け入れることができた。

キャベセン

包丁がまともに握れるようになったところで、キャベツの千切り、通称キャベセンを教えてもらうことになった。

Jさんが修行したレストランでは、最初はただひたすらキャベセンだけを続けていたという。

漫画に出てきそうな修行の話だが実話らしい。

姿勢を正し、完璧な立ち位置で包丁を持つ。

左手は指を立ててキャベツをしっかりと押さえる。

その状態で左手に触れるギリギリのところに包丁をおろしていく。

その時も上から下に下ろすのではなく、手前から遠くへと包丁をおろし、キャベツの切り口を潰さないようにする。

切り口を潰してしまうと、キャベセンのシャキシャキ感が落ちてしまう。

切り幅も完璧に統一していなくては、シャキシャキ感にムラが出て最高級のキャベセンでは無くなってしまう。

光に照らして向こう側が透けて見えるくらいでないと太すぎるらしい。

そのようにして完璧に切りそろえたキャベセンを新鮮で冷たい水の中に1時間ほど浸した後にお客さんに提供する。

もちろん、水の質も温度も浸す時間も完璧でなくてはならない。

たかがキャベツの千切りだと考えていた僕にはここまで徹底したプロ意識でのキャベセンはカルチャーショックだった。

プロとはこういうものなのだと格の違いを見せつけられたような気分だった。

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