石垣島でキャンプする話7(放浪記517)

 

夜明け

 

 

完全に眠ってしまっては、初日の出を見逃してしまうので、H君と僕はお互いに寝過ごさないように注意して眠りについた。

 

 

だがその心配は全くの無用だった。

風の吹く山頂の明け方の寒さは半端ないもので、僕たちは二人とも夜が明ける前に目が覚めた。

 

 

山頂から見下ろす海の果ての向こうにある空から徐々に白んでくる。

 

 

うっすらと明るくなる頃には、他の登山客が何人か登ってきた。

初日の出を最も高い場所で拝みたい。

皆考えることは同じだ。

 

 

登山客達は寝袋にくるまった乞食のような僕たちをみて驚いているが、こちらは気にしない。

笑顔で挨拶を返し、共に日の出を待つ。

 

 

 

初日の出

 

 

朝日が昇り始めて気づいたのは、水平線のあたりが雲で覆われていることだった。

これでは朝日が水面から昇っても太陽を拝むことは出来ない。

 

 

ある程度まで上れば朝日が見えるようになるが、それと同時に頭上にある雲が水平線へと向かって動いていた。

このままでは、水平線の雲を越えて朝日が顔を出す前に、頭上の雲がその隙間を塞いでしまう。

 

 

僕たちは今か今かと日の出を待ちながら、頭上の雲には「まだ水平線には向かうな」と願っていた。

 

 

 

奇跡

 

 

ここで奇跡が起こる。

 

 

頭上の雲が水平線にたどり着いて全てを覆い隠す直前、太陽ふたつ分くらいの隙間を残した時に朝日が現れたのだ。

まるで映画のような絶妙なタイミングに山頂にいる全員が湧き上がる。

 

 

わざわざ夜中のうちから山頂まで昇ってきたのに、朝日が拝めないなんて辛すぎる。

あとほんの少しのタイミングで全く見えなかったかもしれないので、喜びはひとしおだった。

 

 

 

浄化

 

 

僕は2ヶ月前に山小屋で別れた恋人への未練と恨みに囚われていて、表面的には楽しい日々を過ごしていても、心の奥底には切ない思いを抱えていた。

 

 

だが、大袈裟なドラマの末に現れた初日の出の美しさは、文字通り光り輝いていて、僕の心にある影に光を当てて全てを浄化してくれたように感じられた。

 

 

とりあえず僕はもう大丈夫だ。

傷心旅行の意図があったこの旅の目的はある程度果たせたのかもしれない。

 

 

 
 
 

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