北アルプスの山小屋で働く話15(放浪記456)

 

二人

 

小屋へとやってきたのは、僕と支配人の二人だけである。

3人目は数日後に徒歩でやってくる予定だ。

 

ここからは歩いて1時間ほどの距離に2件の山小屋があるが、それ以外は何もない。

あるのは山だけだ。

木や森すらない。

 

とうに森林限界を超えていて、50センチ以上の大きさの植物は育つことができないという特殊な環境だ。

 

 

小屋開き

 

無人の小屋は雨戸が完全に閉ざされて雪の下に埋まっている。

 

今までいた大きな小屋よりも200メートルほど標高が高く、山壁に囲まれている故に、まだ雪が解けずに残っているのだ。

 

小屋開きの儀式は、雪の下に埋まっている出入り口を掘り出す作業から始まる。

 

小屋の外側に安全に隠していたショベルを取り出し、二人で交互に雪を掻き出す。

 

雪を退けた後は、頑丈に据え付けられた雨戸をバールを使って取り外す。

 

30分ほどかけてやっと小屋の中に入ることができた。

 

 

新しい小屋

 

大きな小屋では多い時で800人ほど収容できるらしいが、この小屋は80人が限界だ。

 

規模にして10分の1、全てが小規模に綺麗にまとまっていた。

小さいキッチンに、少ない客室。

小屋も小さければ、小屋の周囲の土地も限られていた。

 

山間の小さな隙間を見つけて、無理矢理に小屋をたてたようだ。

 

ヘリで運んだ全ての荷物を小屋の中へと運び込み、冷凍庫へと食材をしまう。

冷凍庫があるが、電気はまだ無い。

 

 

発電機

 

次の仕事は、発電機を作動させることだった。

支配人とともに小屋の外にある発電室へと向かい、発電の準備をする。

 

八ヶ月もの間、山奥に放置されていた発電機はそう簡単には作動しない。

チョークを調整したり、エンジンをかけるための紐を何度も引っ張ったりしてようやく発電機が動き出した。

 

これで、冷凍食品が溶けずに済む。

次の荷上げまで2週間ほどあるので、この作業を怠ると食べるものがなくなってしまう。

 

やっとのことで、今日1日に必要最低限の仕事が完了した。

 

朝4時に起きてひたすら荷物を運ぶ日々だったので、早めの夕食を食べて1日を終えることになった。

 

 
 
 

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