ビザ
Mくんの勢いは”いまここ”という瞬間に集約しており、日々を最大に生きることに注がれていた。
それは、逆にいうと長期的な予定を無視しているということにもつながる。
彼の場合は、それがビザ切れという形で現れて来ていた。
モロッコのビザは三ヶ月あり、ほとんどの旅人にとっては十分な期間なのだが、Mくんにとっては充分ではなかった。
オアシスへやって来た段階で既にビザの期限ギリギリだったが、どうにかしようというような気配は全くなく、あっという間にビザが切れてしまった。
Mくん的には、”それで?。。。”というようなもので、全く問題の範疇にすら入っていないようだった。
本人が気にしていない以上は、他人が気にするようなものではなく、僕たちはMくんの流れを信頼して任せていた。
ビザが切れてからは、さらに色々と吹っ切れたらしく、Mくんはより一層自由に輝きを増していった。
満月
砂漠で暮らし始めてしばらく経った頃に満月の夜がやってきた。
ガンドルフさんは、この日のためにパーティーを開くことを前もって準備していたらしい。
僕は当日になって知らされたのだが、こちらとしてはどんなパーティーでもいつでも歓迎だ。
このタイミングでやって来たのが年季の入った旅人ミュージシャンのDさんとEさんだ。
僕もIちゃんも彼らの大ファンなので、突然の訪問に大喜びだ。
僕たちは嬉しいのだが、Dさんとはあまりにもオーラが違いすぎて、あまり気楽に仲良くしたりもしづらかった。
ただ、そばにいるだけで嬉しいというような乙女のような心境で、満月を共に過ごすことを喜んだ。
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