自転車で沖縄へ向かう話8(放浪記502)

 

室戸岬

 


僕は四国の南側の海岸沿いを走り続け、右下のとんがった部分にある室戸岬を通過した。

。。。はずだが、残念ながら今の執筆時の僕には室戸岬の記憶は何も残っていない。


かまぼこやお遍路さんや温泉の記憶はあっても、景勝地の記憶とは長年残るものではないのかもしれない。

少なくとも僕の記憶に残っているのは、景色や土地や観光名所ではなくて、感動や驚きや苦しみなどの強い感情や、当時の頭の中を巡っていたことなどだ。

 

 

海岸沿い

 


海に面した道路を自転車で駆け抜けるのは気持ちがよかった。

太平洋を渡って陸地にやってきた空気を吸うと、まっさらで街の汚れのない自然の息吹を呼吸しているようで、なんだか得したような気分を感じていた。


モロッコでエコロジー研究家のガンドルフさんと暮らした経験から、僕は自然原理主義あるいはエコロジーカルトとも言えるような考えを持っていた。

それは、自然を何よりも最高位に尊重し、人の作ったものや人工的なものを穢れたものとみるような考え方だった。


だから、人の世界に触れたことのない風や海は神聖なものの象徴でもあった。

 

 

ランナーズハイ

 


僕は毎日、一日中自転車を漕いで、夜には温泉に浸かり、その近くでキャンプして眠るという日々を過ごした。


その生活パターンは単調なものだが、単調さゆえに満ち足りたものがあり、僕の失恋で傷ついた心を癒してくれた。


当時の僕の頭の中には、Iちゃんとの恋愛での恨み節や切なさや恋しさが渦巻いていた。

自転車を漕ぎ続ける以外に何もない自転車旅行においては、僕の頭と心には常にそのことが寝そべっていた。

だがその反面、長時間に渡って自転車を漕ぐという行為は、肉体に対して強制的にランナーズハイを引き起こしており、肉体が僕の病んだ心を無理矢理に持ち上げていた。


つづく。。。

 

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