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ヒマラヤ山脈の温泉村の話19(放浪記196)

 

色々な旅人

 

ここバシシトは知る人ぞ知る旅人の秘境なので、定期的に面白い旅人がやって来る。

 

当時の僕は全く英語が話せなかったので、日本人の旅人にしか出会わなかったが、それでも個性的な旅人が多く、たくさんの刺激を受けた。

 

Kさんは、それまでに僕が出会った旅人の中では最長の旅記録を持っており、こんな生き方もあるんだと目から鱗が落ちた。

彼の旅のスタイルは非常にシンプルで、とにかくゆっくりと落ち着いた日々を送ること。

 

彼は過去に日本の工場で短期集中して働き、大金を貯金した。

それを日本円が暴騰したタイミングで運良く全てをドルに両替して、トラベラーズチェックに変えていた。

トラベラーズチェックとは当時の旅人たちにとって基本的な現金保管方法で、トラベラーチェックを無くしても再発行できるところと、両替レートが少し良いところが気に入られていた。

 

その大金を持ち、インドの山奥で静かで心豊かな生活を送る。

彼は既に5年ほどそういった生活を送っており、そのシンプルさと落ち着き具合には眼を見張るものがあった。

ある意味自己責任の引きこもりみたいな物だが、ヨガ行者の隠遁生活のようにも見えた。

 

 

貧乏旅人

 

基本的に長期バックパッカーは、節約に努力している人が多い。

節約=働かずに遊んで暮らす時間の延長に繋がるので、定職に付きながら節約するという状況よりも遥かに意味があった。

 

僕も同じようなタイプで、節約して質素に暮らすことは現在稼ぐことの出来ない自分にとっての仕事だというくらいに考えていた。

収入がない代わりに出費を減らす。

 

自分の貧乏な生まれ育ちが、節約を苦に感じさせず、その育ちが旅人としての長所になっていると感じていた。

 

だが、Kさんは僕よりも更にレベルが上の節約家で、外食することもなければ、お菓子を買うこともない。

頻繁に移動することはなく、山奥の激安の家に滞在し、薪で火をおこして自炊生活をしている。

 

僕は、そのあまりにもシンプルな生き方に衝撃を受け、色々なインスピレーションをもらったが、同時に彼のシンプルすぎる生活に疑問を持つことにもなった。

 

そんな山奥で一人で静かに日々を過ごして何が楽しいの?

世界にはあらゆる冒険が溢れているのに、それらを体験せずにいるなんて勿体ないんじゃないか?

 

今となっては彼の隠遁願望や静かな日々の満足感は理解できるが、当時の二十歳の僕には全くの無意味に思えた。

 
 
 
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