チベット自治区を旅する話1(自叙伝071)

チベット自治区を旅する話1(放浪記071)

チベット行きのバス

 
 
 
 
僕たちは準備を整えてチベットへ向かうバスに乗り込んだ。
 
 
 
 
 
三日ほどゴルムドに滞在したので体は高い標高に慣れているはず。
 
 
一応、念のために高山病の漢方薬を用意した。
 
 
 
 
 
今回のバスは軟座でも硬臥でもなく、軟臥だ。
 
 
要するに柔らかいベッドのついた寝台車。
 
 
狭いながらも足を伸ばして寝ることができる。
 
 
 
 
 
バスは二泊三日でチベットの首都ラサにたどり着く予定。
 
 
 
 
 
バスは順調に乾燥した荒野の中を走って行く。
 
 
出発地点は2800メートル、ここから5300メートルを目指す。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

マナー

 
 
 
 
文化の違いというのは色々なところにも現れるもので、清潔感に対する考え方にもカルチャーショックを受けた。
 
 
 
 
 
バスは寝台車で、真ん中に通路があり、荷物をその通路に敷き詰めて、荷物を半分踏みながら自分のベッドまで行く。
 
 
この時点で既に衝撃を受けていたのだが、驚いたのはバスが発車してから。
 
 
 
 
 
バスが走り出すと、皆が用意していたピーナッツの袋を開けて食べ始めた。
 
 
そして誰もが、食べ終わったピーナッツの殻を通路の荷物の上に放り出したのだ。
 
 
 
 
 
確かにピーナッツの殻は口に入れていないから、唾液などはついていないので、バクテリアなどはなさそうだ。
 
 
それでも僕にとってゴミという認識のものを、他人のカバンの上に放り投げるという事に衝撃を受けた。
 
 
不衛生ではないが不潔感があった。
 
 
 
 
 
だがこれは、中国の文化としては普通のことらしく、誰もがやっていて誰も気にしていなかった。
 
 
感覚としては干草の上にカバンを置くようなものだろうか?
 
 
 
 
 
乾燥した草の代わりに乾燥したピーナッツの殻、カバンが上ではなくてカバンが下。
 
 
 
 
 
これに不快感を感じていたのは、中国に慣れていない僕だけみたいで、他は誰もがにこやかにバス旅行を楽しんでいる。
 
 
ここはひとまず郷に入れば郷に従えの諺に従う事にした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

乗り物酔い

 
 
 
 
僕は乗り物酔いをしやすいタチで、長距離の山道など大の苦手だが、このバスは寝台車ということもあり、激しく車酔いすることは無かった。
 
 
 
 
 
標高が高くなって行くにつれて、息が苦しくなって行き、だんだんと頭痛がしてくる。
 
 
数時間に一度休憩があり、友人と会話をするのだが、皆が同じ症状を経験していた。
 
 
 
 
 
皆と相談して、症状がひどくなる前に高山病の薬を飲むことにした。
 
 
以前、ペルーで高山病の薬と風邪薬を合わせて飲んでひどい目に遭っていたので、今回は恐る恐る飲んだ。
 
 
 
 
 
症状が軽くなった訳ではないが、極度に悪化することを防げたのかも知れない。
 
 
 
 
 
峠の頂上間近、標高5000メートルに近づいたあたりから、頭痛は更に激しくなってきた。
 
 
息も苦しくなってくるし、わずかに乗り物酔いも合わさってきた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

タングラ峠

 
 
 
 
苦しい状態がしばらく続いた後に、ついに世界で7番目に高い峠、標高5231mを誇るタングラ峠にたどり着いた。
 
 
ここがものすごく高い場所にあることは体感としてしっかりと感じることができる。
 
 
空気は薄く、頭痛がして、目眩までしてくる。
 
 
 
 
 
酸素が少ないからか、少し歩いただけで息切れがする。
 
 
フラフラしながら用を足しに公衆トイレまで向かう。
 
 
 
 
 
 
またもや中国の公衆トイレから衝撃を受けた。
 
 
 
 
 
ここは山奥なんてレベルではない超山奥で、おそらく誰も掃除しに来ることはないのだろう。
 
 
永遠に誰にも掃除されることのない中国の超山奥の公衆トイレ。
 
 
 
 
 
18禁にしたいほどの汚さだった。
 
 
 
 
 
汚すぎて実用にはならず、旅行者に吐き気を催させるだけ。
 
 
用を足そうと近づいた旅行者は、覗き込んだ後に絶望の表情を浮かべ、遠くの野原に消えて行く。
 
 
野外で用をたす方が何倍も理にかなっている。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

景色

 
 
 
 
 
峠の頂上でバスがしばらく休憩するようなので、友人たちと辺りを少し散歩する事にした。
 
 
 
 
 
しばらく歩いて、峠の反対側の景色を見てまたもや大きな衝撃を受けた。
 
 
 
 
 
峠の頂上から緩やかな斜面が地平線の彼方、見えなくなるまで延々と続いている。
 
 
その斜面は水々しい緑の草に覆われていて、まるでナウシカのアニメに出て来るような、モンゴルの草原のような、見たことのない絶景が続いていた。
 
 
 
 
 
それまでもそれなりに綺麗な景色を見たことはあったが、今回は度肝を抜かれるような絶景だった。
 
 
僕は高山病でフラフラになりながらも、この景色を見た途端、その美しさに目を見開き嘆息を漏らしていた。
 
 
 
 
 
魂が解き放たれて、緑の斜面をハングライダーに乗って滑空して行くような強烈な体験だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
つづく。。。
 
 
 
 
 

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