北アルプスの山小屋で働く話11(放浪記452)

 

奇行

 

登山道が整備されたことと、初心者向けで登りやすいという宣伝効果が合わさったことで、登山慣れしていない年配の登山客が大勢やってくるようになった。

だが、それと同時に登山中の事故も増えていくようになった。

 

そして不思議なことに、その事故の多くはある一定の場所で頻発していた。

 

ある人は心肺機能に異常が出て、ヘリコプターで救助しなければならないような事例があったりした。

別な人は心臓に問題が出たり、膝や足首に問題が出たりした。

 

登山客の事故等は山小屋運営上において最も避けたいものである。

 

 

祈祷師

 

同じエリアで頻発する事故があると言う事は、その辺に何か悪い地縛霊がいるんじゃないかと考えた社長は、祈祷師を呼んでお祓いすることにした。

 

社長は経営の神様を信奉する人たちのつながりを通して、いろいろな霊能者を知っていた。

 

事故が頻発した数週間後に、その祈祷師はやってきた。

 

祈祷師は仕事でやってくるので、登山客ではない。

特別扱いの大先生なのでヘリコプターで運ばれてやってきた。

 

 

豹柄

 

ヘリコプターから降りてくる祈祷師を見て、従業員たちは度肝を抜かれた。

多くの従業員たちは笑いをこらえるのに必死だったと言う。

 

その祈祷師は黒いタイツと豹柄のボディコン・ドレスを着た厚化粧のおばさんだった。

 

社長は祈祷師先生を丁寧にお迎えし、最上級の部屋をあてがって取りなした。

 

次の日、祈祷師は山を下り、例の悪い気が漂っているエリアでお祓いを行った。

 

その祈祷は主に奇声をあげて叫ぶようなものだったらしく、従業員たちは皆衝撃を受け、どう対応していいか戸惑ったという。

 

結果、1時間ほど厳粛に奇声をあげた後に、山を降りていったという。

 

この儀式、しめてウン十万円の費用がかかったという。

 

 

対策

 

この祈祷師の儀式を気に食わなかったのが、中継小屋のMさんだ。

 

彼がいうには、例の場所で事故が多発するのは、十分な量のベンチがないからだという。

 

登山道に適度な間隔でベンチがあれば、疲れていればそこで一休みするので、疲れを押して登山し続けた上での事故などはなくなるはずだという。

 

この案を信じるMさんは、祈祷師の儀式の直後にベンチを新設した。

 

祈祷式の効果なのか新設ベンチの効果なのかはともかく、結果的にはそれ以降その場所での事故は無くなったという。

 

残ったのは奇妙な祈祷師の伝説だけだった。

 

 
 
 

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