サハラ砂漠のオアシスで共同生活する話15(放浪記403)

 

月光

 

僕とIちゃんは焚き火から少し離れ、暗闇から美しい満月を眺めていた。

 

鋭くも暖かい月の光が何とも言えず心地よい。

心なしか通常の夜よりも暖かく感じる。

 

本で読んだ情報によると、満月の日は半月の日の五十倍の光の強さがあるという。

そんな話を納得できるほどの光の強さだった。

 

 

曇り空

 

雲ひとつない空にまん丸と浮かんだ満月が僕たちに笑いかけてくる。

 

その笑みに翳りが見えた。

満月に雲がかかったのである。

 

常に晴天の砂漠ではありえないその光景に、僕たちは目を疑った。

 

だが幻覚などではなく、明らかにどう見ても月の光が翳っている。

 

雲が動いているのかして、月の翳りが徐々にましていく。

 

 

奇跡

 

雲ひとつない砂漠に雲がかかるなんて、それは奇跡だ!と大喜びで、焚き火の元へ戻り、友人たちへ僕たちが見たことを報告する。

 

皆は、僕たちの言葉は気にかけずに、黙ったまま月を見つづけている。

 

満月にかかった雲はどんどんと勢いを増していき、今にも月全体を覆いそうになっている。

 

しばらく月を見ていると、とうとう雲が月全体を覆ってしまった。

 

そしてなんと驚いたことに、雲により黒くなった月は、今度は赤黒く変色し始めた。

ありえない話である。

 

さらにあり得ないことに月明かりが暗くなり、夜空に星が輝き出した。

 

 

解明


えっ、えっ、えっ?

もしかして、これって月蝕が起こってるの?

 

起こっている現象を論理的に説明できる言葉は月蝕以外に見当たらない。

 

僕たちは現実に起こっている砂漠での月蝕体験に戸惑いながらも感動していた。

 

友人たちに確認してみると、一部の人たちは知っていたが敢えて伝えていなかったようだ。

サプライズイベントである。

 

僕たちは知らなかったおかげで、最高の驚きと最高の月蝕体験をすることができた。

 

 
 
 
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