モロッコで21世紀を迎える話31(放浪記374)

 

奇跡の裏側

 

砂漠へ降る4年ぶりの雨に人々は歓喜していたが、この天候の軌跡がもたらしたものは喜びだけではなかった。

 

雨の量は大したものではなかったが、それでも真冬の砂漠の気温を下げることには成功した。

 

一部で気温が下がり、一部では同じ気温のままだとどうなるかというと、風が吹くのである。

そして、その風が障害物の一切ないまっ平な砂漠で吹くとどうなるのかというと、砂を含んだ突風になるのである。

 

その突風は、建設中だったフェスティバルの建物を全て吹き飛ばしてしまった。

 

 

ガンドルフさんの憂鬱

 

突風が吹いた次の日、ガンドルフさんが暗い顔をしてホテルへとやってきた。

 

フェスティバル開催3日前に、今まで建設した全てが吹き飛んでしまった。

フェスティバルオーガナイズに関わる責任者としては災難中の災難である。

 

今までの必死の努力は水の泡へと帰り、それを再び再建する時間はない。

かろうじてできるのが、吹き飛んだものを片付けることくらいだった。

 

僕たちは、ガンドルフさんを助けるために、フェスティバル会場へ行って片付けるのを手伝うことにした。

 

 

災難の跡地

 

フェスティバル会場では、多くの人たちが集まって壊れてしまった建築物を解体している。

解体したものから再度ステージなどの最低限必要なものを作り上げるようだ。

彼らは、美しいステージを作り上げていたが、今はもうない。

 

大きな建築物は全て突風によって破壊されていたが、小さくて重いものは全くの無傷だ。

僕とIちゃんが作り上げた”なんちゃって日本庭園”は微動だにしていない。

砂漠に並べた岩は相変わらず岩のままだった。

 

みんなが必死になって作り上げたものが全て無に帰している中、僕たちが適当に作ったものがしっかりと残っているのは、嬉しくもあり、申し訳なくもあった。

 

だが、起こったことはどうしようもない。

今あるものでただ続けるだけだ。

 

この突風は、ボランティアワーカーたちの心を一つにしたようだった。

 

時間内に完成しなければいけないとストレス満載で働いていたものが、突如全て吹っ飛んだのである。

理想も建前も何もなく、フェスティバルが始まる前に最低限のものを作る。

 

その緊急事態のおかげで皆が一丸となり、フェスティバル開催へと向かっていった。

 

 
 
 
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