お酌
僕は一人一人順番にお酒を注ぎつつ、会話をこなしていく。
それは社交辞令的な部分も大いにあるが、それでもそれぞれの個性と一対一で向き合って会話をするというのは、一歩踏み込んだ繋がりを持たされる。
お世話になった人や、よく見知った同僚とは気軽にお酒を交わし会えるが、お互いにストレスを感じ合うような関係の人とお酒を酌み交わすのはなかなかの挑戦だ。
特に Iちゃんと仲良くしていた三人の男の子たちとはある種の緊張があった。
彼らとは僕が最初に大きな小屋で働いていた時は仲が良かったのだが、小さな小屋での仕事が終わってまた大きな小屋に戻ってきたときには、なぜか距離を置かれていた。
それは、Iちゃんが僕に対して距離を置いたことと連動しているのかとも思っていたが、後になって分かったのは、彼らは三人とも仄かな恋心をIちゃんに対して抱いていたようで、その反面の嫉妬心が僕に向けられていたようだった。
その嫉妬心は、Iちゃんと上手くいっていない僕には謂れのないものだったので、不満やる方ない。
とんでもない人間ドラマに巻き込まれたものだ。
Kくん
順番にお酌をして回っていると、ついにIちゃんの恋愛対象であるKくんの番になった。
この頃には僕も相当にお酒が回っている。
元々お酒を飲む習慣を持っていなかったが、山小屋で働くようになって晩酌の習慣に招き入れられた。
日々飲むごとにお酒に強くなっていくが、それでも本来の遺伝的なものもあり、比較的早くに酔っ払ってしまう。
既に酔っ払った状態でK君にお酒を注ぐ。
K君と話してみたが、Iちゃんからはまだなんの話も聞いていないようだ。
これは彼女なりの気遣いだったのかもしれない。
他愛のない話をした後に、僕は真顔になり、今後どんなことがあっても僕たちは友達だからよろしく頼むと伝えた。
これは今後のK君とIちゃんの関係を考慮して言ったものだが、この時のK君にはよく分かっていなかっただろう。
お酒の上での熱い会話に聞こえたかもしれない。
実際、このような臭い会話はお酒を飲まないとやってられなかっただろう。