インドへ舞い戻る話1(放浪記173)

 

出国

 

貯金が溜まった上で仕事を辞め、再び自由の身になる。

これから待っている冒険の事を思うと心が踊る。

 

家族や親戚や友人に再び旅へ出る事を報告し、挨拶を済ませる。

 

ガールフレンドのIちゃんとの一時的な別れは辛かったが、数ヶ月後にはまた会える。

別れの辛さよりも旅への興奮の方が僕の心を圧倒的に支配していた。

 

そして、冒険への期待よりも、日本の閉塞感から脱出できる事の喜びはさらに大きかった。

 

目的のために役割を演じていた自分から、本来のありのままの自分へと戻る。

その開放感は自分の魂の本質をしっかりと表しているように感じていた。

 

 

フライト

 

出発の日にはIちゃんが見送りに来てくれた。

 

彼女は、しばらく会えなくなる寂しさを表現してくれるが、僕の心はとっくにインドへ飛んでいた。

恋愛関係を持つ者として大変失礼な話だが、この時の僕にとってインドを旅することほど重要なことは他になかった。

 

僕たちは 5ヶ月後の再開を約束して別れる。

 

飛行機は関空からバンコクを経由してデリーへと向かう。

 

タイに寄って軽く遊んでからインドへ行くことも考えたが、それよりも一刻も早くインドへと戻りたい。

僕にとっては、何を差し置いてもインドが最優先だった。

 

 

匂い

 

飛行機は関空からバンコクを経由してデリーへと向かう。

飛行機から降りて、デリーの空港内に入った瞬間にインドを体感した。

 

それは伝統衣装のサリーを着た女性やターバンを巻いた男性を見たからでは無い。

それはインド独特の匂いによって体感された。

 

外国から日本へやってくる人が最初に鼻につくのは出汁醤油の匂いだと言うが、僕がインドへ来て体感したのは、カレーと下水が混ざった匂いだった。

ただのカレーの匂いでもなく、ただの下水の匂いでもなく、両方が混ざって融合しあった独特の匂い、そこに嗅ぎ慣れたインド独特の消毒薬の匂いが混ざって、インドの存在感を表現していた。

 

僕はこのどちらかと言うと臭いと言う表現が似合うような匂いを嗅いで、腰の力が抜け落ちた。

臭くて力が抜けたのではなく、日本で凝り固まった緊張感が解けて、リラックスして力が抜けたのだ。

 

インドへ戻って来たんだ。

もう自分は何者かを演じて日本社会に合わせる必要はなく、魂の赴くままに自分自身でいる事ができる。

自分自身でいると言う事、それは僕にとっては魂の故郷に帰ると言う事でもあった。

 

まさかカレーと下水の混ざった匂いに故郷を感じるとは想像もしなかったが、僕の魂はこの臭い匂いに見事に反応していた。

 

 

 
 
 

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