アンチョビ・タジン
ウエイターのおすすめのアンチョビ・タジンがやって来た。
タジン専用の土鍋を開けた瞬間に漂う、野菜と魚とオリーブオイルの合わさった匂いが何とも食欲をそそる。
言わずもがな、驚くほどの美味しさだ。
ここに来て確信したが、モロッコの食事はどこで食べてもかなり美味しい。
美味しいか、すごく美味しいかのどちらかだ。
まずいとか、そこそこと言うものは今のところ出会っていない。
どうやらその秘密はオリーブオイルにあるようだ。
乾燥して日差しの強い気候はオリーブ栽培に適しているらしく、最高級の新鮮なオリーブオイルが安価で手に入る。
油をたっぷり食することで肌に油を含ませて、乾燥した気候から身を守る役目もしているようだ。
僕たちはオリーブオイルでギトギトになりながらも、胃にはもたれない心地よさを楽しみながら、満足して食事を終えた。
ミントティー
食事の後に出てくるのは、ミントティーだ。
モロッコにおいて、お茶といえばミントティーのことである。
インドにおいてチャイがあり、イタリアにおいてエスプレッソがあるように、モロッコにおいてはミントティーだった。
だが、このミントティーは他の国でのむミントティーとは少し違う。
うっすらとミントの香りの漂うハーブティーといった趣ではなくて、苦味さえ感じるほどにしっかりと煮出して、とんでもない量の砂糖を混ぜ込んで甘くしたものだ。
日本人の甘さの感覚で言うと、食後のお茶というよりも、飲むデザートといった方が正確かもしれない。
それほどに濃くて甘い。
アラジンの魔法のランプのような急須に淹れたミントティーをカップに注ぐ。
その注ぎ方には特徴があり、最初はカップの近くから注ぎ始めて、注ぎつつも徐々に急須をカップから離して上へと持ち上げていく。
そうすることで注がれる勢いが激しくなっていき、飲みやすい温度にさましたり、砂糖が綺麗に混ざったりするようだ。
これはモロッコ流の魔法の儀式で、何か特別なお茶を飲んでいるような気分にしてもらえる。