インドを旅する話5(放浪記090)

サトシ

 
 
 
 
カルカッタの安宿街、サダルストリートに滞在して、しばらくすると必ず出会う存在が居る。
 
 
それがサトシだ。
 
 
関西弁を話す彼は、お笑いコンビのダウンタウンの松ちゃんとマブダチだと言う。
 
 
 
 
 
彼は、関西人には当たり前、他の地方の人には異文化のノリツッコミを自在に使いこなし、関西人の僕とテンポの良い会話をこなす。
 
 
 
 
 
だがしかし、完璧な関西弁としゃべくりの文化を体現しながらも、彼はどこからどう見てもインド人なのだ。
 
 
 
 
 
見た目が100%インド人の彼が、馴染みのある関西弁で話しかけてきたときには度肝を抜かれた。
 
 
彼の言葉には、ごくごく微妙に関西人だからこそ分かるような音程の違いが聞き取れるが、他地方の人が彼が話すのを聞くと関西人と間違えてしまうだろう。
 
 
サトシは、そんなレベルで関西弁を使いこなしていた。
 
 
 
 
 
“俺、ダウンタウンの松ちゃんとはマブダチやねん”とは言うものの、そんな訳はないと思い、問いただしまくって彼の正体を知った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

サトシの正体

 
 
 
 
 
なんと彼は通りの端っこで、お香の露天商を営む『サダルストリート』の住人だった。
 
 
 
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彼が子どものときに長期滞在していた関西人の旅人と、ずっと一緒にいることで言葉を覚えたのだという。
 
 
 
 
 
インド人は得てして言語の才能があるが、彼の才能は突出していた。
 
 
 
 
 
サトシは、そんじょそこらの日本に住んでいる外国人よりも、感覚として関西弁を体得しており、彼のお笑いに対する文化的な理解は、お笑いオタクの僕をも満足させるものだった。
 
 
 
 
 
彼のお店自体は、かなり暇なのだと思う。
 
 
しょっちゅう僕達のゲストハウスに来ては、日本人の旅人達とボケてツッコんでを繰り返していた。
 
 
仲良くなった人は大概、大量のお香を彼から買って日本へのお土産にするので、彼としても、お店で働くよりも日本人の旅人と遊んでいる方が理に適っているのだろう。
 
 
 
 
 
 
前述のKさんは流石に、この街に9ヶ月も居るだけあって、サトシとも文字通りのマブダチだ。
 
 
気の合う者同士の、彼とサトシとの他人種間ノリツッコミは、一見の価値があった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

移動

 
 
 
 
 
僕は、全く持って思いの外に楽しかったカルカッタ滞在を終了させて、次の土地へ向かう準備ができていた。
 
 
 
 
 
ここまで来て貧民街の洪水まで経験した僕は、一人旅だろうとなんだろうと何でも来いと言う心境になっていた。
 
 
 
 
 
僕がインドに対して抱いていた恐怖は、見知らぬものに対する恐怖で、カルカッタの濃い部分を知ってしまった今となっては、恐れる事は無くなった。
 
 
 
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心の準備が出来、旅への興奮に浮足立った僕は、その足で列車の駅まで向かい、バラナシへ向かう寝台列車の切符を予約した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

アナログ

 
 
 
 
何度も繰り返すが、当時の旅の状況、ひいては社会状況までが今とはまるきり違う。
 
 
その大きな理由の一つが、インターネット普及前と言うことで、電車の情報を調べたり、チケットを買ったりという行為の全てがアナログな手段に依存していた。
 
 
そしてインドは、そのアナログさが極端な方向に進化していた。
 
 
 
 
 
 
どの国にも民度の高い人と低い人が居るが、インドほどその差の激しい国もなかなか無いだろう。
 
 
国として社会システムを作る場合には、民度の高い人に合わせていては国が成り立たない。
 
 
必然的に民度の低い方に合わせたシステムが必要になってくる。
 
 
そういった特徴はあらゆる部分に出ていて、列車のチケットを取ることもその一部だ。
 
 
 
 
 
インドでは順番待ちという概念が存在しないので、基本的には強い者勝ち、あるいは必死な者勝ちの世界になって来る。
 
 
やわな文明国で育った外国人旅行者が、精一杯全力で生きているインド庶民に太刀打ちできるはずも無く外国人は、まともにチケットを買う事も難しい。
 
 
 
 
 
お金に余裕のある金持ちは旅行代理店に頼めばいいのだが、できるだけ節約したい貧乏バックパッカーの身としては、あらゆる局面で節約したい。
 
 
 
 
 
そういった状況が相まって、大都市の駅では外国人専用窓口が設置されている。
 
 
 
 
 
特に列車に関しては外国人は大きく優遇されており、インド人よりも空席を得られやすかったりする。
 
 
もっと前は外国人優遇措置なども無かったので、かなり大変だが、その分よりリアルな旅があったんだと思う。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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