ホーム » 放浪記 » 北アルプスの山小屋で働く話29(放浪記470)

北アルプスの山小屋で働く話29(放浪記470)

 

体験談2

 

Sさんは蝶々の話に度肝を抜かれ鳥肌の立っていた僕たちに、立て続けに体験談を話してくれる。

 

ある時、山で猛吹雪が発生し、女性登山客が遭難した。

猛吹雪ゆえに二次遭難の恐れがあるため捜索出来ず、吹雪が止んだ後に捜索が行われた。

 

女性登山客は登山道の真ん中で、死体となって見つかった。

ただ死んでいるのではなくて、その死体は一糸まとわぬ全裸姿だった。

 

それを見つけた捜索隊は、警察と相談し、近隣の山小屋従業員に強姦された可能性があるとして捜査を開始し始めた。

だが、検死の結果、強姦の痕跡は一切なく捜査は行われなかった。

 

どうやらその女性登山客は、吹雪の中で遭難し、恐れ慄いたゆえにパニックに陥り、幻覚を見たらしい。

 

その幻覚は温泉に入ったような幻覚だったかして全裸になっていたということだ。

 

 

崖っぷち

 

面白い山の話を色々としてくれたSさんは、三日ほどうちの小屋に泊まりながら、周辺の登山道を直して回っていた。

 

僕はこの頃には山の暮らしに完全に慣れてきていて、崖っぷちに立っていても恐れることなく落ち着いていた。

2年ほど前までは高所恐怖症の気があったのが嘘のようだ。

 

毎日2時間ほどお昼に休憩時間があったので、従業員しか立ち入ることのできない小屋の裏にいって休憩することが多かった。

 

そこは、標高差が1000メートルほどある超危険な崖。

あまりにも大きな標高差があるために、雨が降った後の晴れ間に虹がかかった時には、半円の2時ではなく全円の虹を見ることができた。

通常の虹は地平線よりも下を見ることはできないが、地平線が遥か下方にあるために虹の下側を見ることができたのだ。

 

 

楽器

 

僕の好みの休憩の過ごし方はその崖っぷちに座り込んで楽器を演奏することだった。

 

モロッコで買ったデラブッカという、陶器でできた本体にラクダの皮を貼り付けた太鼓を演奏していた。

その音は山に跳ね返り、谷間中に響き渡っていた。

 

他にもディジェリドゥというアボリジニの楽器を塩ビ菅をつなぎ合わせて作ったりして演奏していた。

 

太鼓もディジェリドゥも大して上手に演奏できたわけではなかったが、崖の天辺から谷底へ向けて演奏するのはなんとも気持ちのいいものだった。

 

 
 
 
前の記事 | 次の記事

 

 

当サイトは皆様の共有のおかげで成り立っています。

シェアをよろしくお願いします!

 

ホーム » 放浪記 » 北アルプスの山小屋で働く話29(放浪記470)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です