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ロンドンに住む話12(放浪記316)

 

Eくん

 

ドイツでの治験アルバイトから帰ってきたJ君が連れて帰ってきたのは、ベルリンのトランスジェンダー・ショービジネスの世界で活躍するE君だった。

 

ゲイやトランスジェンダーの世界には色々あって、”くん”と呼べばいいのか”ちゃん”と呼べばいいのか、境目が曖昧だが、Eくんの場合は”くん”だった。

 

彼は僕が初めて出会ったトランスジェンダーの人で、その強烈な個性には度肝を抜かれた。

 

彼は背が高く美しい風貌をした、牛若丸のような長髪の美男子で、見た目は完全に男性。

それでいて仕草や、細やかな気遣いや、話し言葉は完全に女性。

そしてその性格は、向上心を持ってベルリンのショービジネスの世界で活躍する姉御肌的な男前の性格をしていた。

 

太っ腹で度胸があって責任感が強く面倒見が良い任侠風な男前の性格と、日本女性的な仕草と長髪の美男子という風貌は、相反しながらも見事に調和していて不思議な魅力を醸し出していた。

 

 

ベルリンのトランスジェンダー業界

 

ベルリンはトランスジェンダーの文化が発展しているらしく、自分の国で居心地が良くないトランスジェンダーたちが世界中から集まってきているらしい。

 

Eくんも、ベルリンだとどんなに個性的な格好をして、どんな性でどんなライフスタイルを送っていようと、一般市民として受け入れられる。

 

ベルリンの非日常でも日常として受け入れる懐の広さが、はみ出しものたちを呼び寄せているのだろう。

 

Eくんはもう一人のトランスジェンダーの日本人男性とタッグを組み、ナイトクラブでダンスパフォーマンスをしているらしい。

ダンスパートナーは見た目はすでに女性なので、二人の見た感じは男女のカップルに見えるのかも知れない。

 

勝手なイメージで、ストリップダンスなどをしているのかと想像するが、そうではなくタップダンスなどのある意味正当なショービジネスをしているらしい。

それなりに人気があって、定期的に仕事があり、ある程度のファンもいるらしい。

 

僕の中では、日本のテレビなどで見るオカマのイメージが定着していたので、オカマは変態で奇抜で危険といった感覚を持っていたが、どうやらアレはテレビ上の演出だったようだ。

 

Eくんは非常に個性的で、一般的ではない性の傾向を持っているが、だからと言って危険で壊れているわけではなく、あくまでも一人間として人生を送っていた。

 

僕はこの出会いでトランスジェンダーの人と普通に友達になることで、今までテレビから洗脳されていたイメージを払拭することができて、一対一の人間同士として関わることができるようになった。

 

実際に触れ合って見ると、皆ただの人間なのである。

 
 
 

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