ワルザザードの日々
僕たちは、基本的になんの意図もなく日々を楽しく過ごした。
全く違う文化圏の全く見知らぬ街に暮らすと言うだけで、何をせずとも最高に楽しい。
もちろん楽しいのは、この何もない砂漠の街が、意外にも結構いい街だったからだ。
人々は素朴で暖かく、僕たちのことを笑顔で迎えてくれる。
後で聞いた話では、イスラム教の教えとして、外国人には徹底的におもてなしをしろと言うものがあるらしい。
注目
しばらく滞在していると、街の人々が僕たちのことを認識するようになる。
この街は砂漠の入り口にあるので、砂漠へ向かう旅人と、街へ帰ってくる旅人の交差地点になっている。
だが、この入り口の部分に長期滞在する人など滅多にいない。
大体は1日か2日で街を出て行く。
僕たちのように何日も滞在する理由はない。
しかも、訳のわからんアジア人の若いカップル。
アジア人自体がまず来ないし、来ても金持ち観光客が数時間立ち寄るだけ。
若いアジア人のカップルなど見ることもない。
しかも、なぜか街に馴染んでいる。
そうしたわけで街の人々が僕たちに話しかけてくるようになった。
友達
だが、まともに言葉が通じないので、身振り手振りと感情表現だけで心を通わしていた。
オリーブ屋のおじさんと仲良くなり、八百屋のおじさんと仲良くなった。
中でも一番近い存在になったのは、土産物屋のお兄さんで、彼は英語を話すことができた。
彼も砂漠の街で退屈していたのだろう、僕たちとの出会いはいい刺激になったようだ。
遊びに行くと、ミントティーをご馳走してくれ、タジンの作り方や、クスクスの作り方を教えてくれた。
見知らぬ土地で言葉が通じると言うのは、心の壁を取り払ってくれる。