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北アルプスの山小屋で働く話32(自叙伝473)

 

海の日

 

支配人は常々、海の日がくるぞと言っていた。

 

小屋明けから海の日までの一ヶ月間は、繁忙期の準備のために費やされた。

山小屋の利益の7割ほどが、この3週間の繁忙期に集中する。

 

忙しい時などは、小屋の定員を超えることもある。

山小屋では定員を越えたからといって、追い返すことは法律で禁止されているし、登山客も他に選択肢がないので受け入れざるを得ない。

 

うちの小屋は60人が定員だが、最も忙しい時は84人を数えた。

 

本来の定員は、たたみ三畳分のスペースに3人が横に並んで寝る。

上段と下段があるので、畳三畳分のスペースに6人が寝ることになる。

 

それだけでもかなり狭苦しいが、最も忙しいときには、三畳分のスペースに上下段合わせて8人が寝ることになる。

 

ちなみに山小屋にはシャワーはないので、誰もが登山後の汗臭いままだ。

汗臭い登山客が三畳に8人寝るという、なかなか強烈な光景が展開される。

 

だが、その身体的な不快さとは裏腹に、誰もが登山後の肉体的な心地よさと、山に登った達成感、そして果てしなく広がる美しい景色と、うちの支配人の作る美味しい食事が相まって、上機嫌で夕食時を迎えるのである。

 

難しい顔をしている人など滅多に見ることはない。

 

 

超労働

 

難しい状況にあるのはむしろ従業員の方だ。

 

海の日などの超忙しい日は、朝3時半から1日が始まる。

短い食事休憩を何度か挟んで、夜の23時頃までぶっ続けで働き続ける。

 

睡眠時間は長くて4時間。

支配人などは3時間ほどしか寝ていない。

そんな日が何日も連続するのである。

 

もちろん、海の日や土日やお盆休みは格別に忙しいが、それ以外の日はもう少し眠ることができる。

だが、6時間も寝ることのできる日は中々ない。

休日などもってのほかだ。

そんな日々が最低でも3週間、長い人だと一ヶ月半くらい続くのである。

 

このかなり厳しい労働環境は、ある意味修行とも言えた。

この地獄の修行の日々を通り抜けることで、労働の限界を押し上げることができるのだ。

 

事実、僕は山小屋バイトの体験以降、限界を超えて気合いで乗り切るという根性論を習得することができた。

 

 
 
 

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