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北アルプスの山小屋で働く話34(自叙伝474)

 

休暇

 

とんでもない超労働の夏の盛りを過ぎて、8月後半に入ると一気に登山客が減る。

その人数の増加具合と現象具合は、一種のバブル経済のような趣もある。

 

このタイミングが、僕たちバイトが休暇を取るタイミングになる。

お客さんが減るものの、夏バイトの人たちもまだ働いており、仕事もしっかりと覚えている。

 

人によってはこの休暇を利用して街に下る人もいるが、僕はこの機会を利用して更なる山奥へと冒険することにした。

 

 

超山奥の温泉

 

僕が目指したのは、どの道を通っても最低でも13時間登山を続けないと辿り着くことが出来ないという、超山奥の温泉だ。

 

うちの山小屋からだと ”たったの” 8時間の登山でそこまで辿り着くことができる。

 

この温泉は標高2000メートルほどの窪地にあり、周りを3000メートル級の山々に囲まれている。

 

温泉のすぐそばに1軒の山小屋があるが、それ以外には5時間ほど歩かないと何もない。

 

大自然のど真ん中という表現が似合う究極の温泉だった。

 

 

出発

 

僕はこの3日間の休暇を最大限に活用するために、初日は日の出とともに出発した。

 

近くの山頂付近までは周りに登山客がいて、すれ違うたびに笑顔で挨拶をするが、ある程度山奥に進むと人の姿はぱったりと消える。

 

見渡す限り続く山並みのなかで動いているのは自分一人。

人口の建物すらも一切目に入らない。

完全に自然と自分だけの一対一の対話だ。

 

今まで旅をしていて、大自然の中にいることがあったが、周りには常に誰ががいた。

完全に一人きりで、人に出会うことのできる場所まで歩いて何時間もかかるような、真の山奥に居ることは初めての体験だった。

 

足を挫いても誰も助けてくれないし、山から滑落すればそれで人生が終わる。

全てが自己責任の元に存在していた。

 

生きるか死ぬかは、自分しだい。

ミスをすれば5分後には自分はこの世に存在しない。

 

自分が自分の生死の与奪権を持つという、山においての当たり前の事実は、僕の意識を最大限にまで研ぎ澄ますことになった。

 

それは目に映る全ての生命を光り輝かせることに繋がった。

僕は命に満ちて、着々と歩を進め続けた。

 

 
 
 

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