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北アルプスの山小屋で働く話38(自叙伝478)

 

夜明け前

 

この日はいつもよりもさらに早起きだ。

なんせ目的は朝日に焼ける山頂をみることなので、日が上ってからでは遅いのだ。

 

夜空は既に白んでいて、夜明けが近いことを示している。

テントの中で微睡んでいるうちに、朝日が昇り出した。

 

朝日の真っ赤な光が、山頂の天辺を照らし出す。

その光は徐々に山頂全体を燃え上がらせ、次第に山全体を燃え上がらせる。

 

朝日に燃え上がった山頂は、上下逆さまになって、氷のように冷たい水面に映し出される。

 

燃え上がる山頂と、逆さまになって水面に映る山頂が合わさり、絶景をこえる絶景を作り出していた。

 

その景色は一瞬の輝きで、みるみるうちに消え去っていく。

僕は必死になってその絶景をカメラに収めようともがいた。

 

真っ赤な山頂は、時間とともにその赤みを減らしていき、最後は日光に光り輝く山頂へと姿を変えた。

 

山の先輩方が熱心にお勧めしていたのも頷ける見事な光景だった。

 

 

帰宅

 

至上の光景とともに僕の登山休暇は終了した。

 

午後からはまた仕事が待っている。

テントをたたみ、焚き火の痕跡を消して、山小屋へと帰ることにした。

 

生まれて初めての本格的な登山だったが、これで一気に山の味をしめた。

 

登山なんてしんどくて汗臭くて、危険で退屈なものだというイメージが僕の中に眠っていたが、そのイメージは今回の体験で一気に塗り替えられることになった。

 

 

支配人代理

 

僕が休暇を終えて帰宅すると、今度は支配人が休暇に行く番だ。

数少ない休暇のチャンスを狙って順番に休暇を回していくのである。

 

この日は支配人がいないので、僕とKちゃんの二人で支配人的な立場を演じることになった。

 

そうは言っても普段の仕事と大差はないのだが、それでも全ての責任を負い、安心感の基礎になる支配人がいないことは一抹の不安を感じさせた。

 

Kちゃんがお客さんに挨拶をし、ワインの乾杯の音頭をとる。

 

僕は、発電機関係の仕事を全てこなし、無線での定時連絡を行った。

 

休暇時の登山では自然の中に自分だけという独立感を体験し、小屋に帰ってきてからは支配人がいない山小屋と言う別の独立感を体験することになった。

 

どちらも大自然という優しくも恐ろしい、人の力の及ばない環境での自立という、肉体存在の根幹を揺さぶるような経験だった。

 

 
 
 

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