サハラ砂漠の滝でキャンプする話6(放浪記427)

 

 

向こうには湖が見えている。

 

満月の下で泳ぎたいところだが、街の住民の飲み水になるものなので、ガンドルフさんから泳ぐことは禁止されている。

 

満月の明かりに照らし出された湖は、暗闇の中に浮かび上がり、高貴な姿を光らせていた。

 

僕たちは光る湖を見ながら語り合った。

過去の暮らしの話や、今後の旅の話、将来の夢や、人生について。

 

Iちゃんは日本に帰り、演劇に打ち込む。

 

Yくんはこのあとはヨーロッパへと北上し、各国を回りながら日本へと向かう。

 

僕は、このままアフリカを旅するかロンドンへと戻るか思案していたが、ロンドンへ戻ることを決めていた。

 

 

旅人、音楽家

 

僕の中では、旅人という自意識と音楽家という自意識の両方があり、意識が二つに別れていた。

 

今は、ある程度の旅をしたので、音楽に集中したいと考えていた。

本来の目的だったロンドンに住んで音楽制作に集中するという計画だ。

 

このキャンプが終わったあとは、少しづづ旅をしながら北上し、ロンドンへと戻る予定だ。

 

家も仕事もないが、なんとかなるだろう。

 

 

満月のセレモニー

 

こうして満月を共に楽しむことは、僕たちにとっては単純な喜びというだけではなく、お別れの儀式でもあり、次のステージへの旅立ちの儀式でもあった。

 

僕とIちゃんはモロッコの旅が終わると別れることになる。

カップルとして別れる予定ではないが、今後に再開する予定もない。

 

未来を規定するにはあまりにも若すぎた。

 

だからこそ、こうしたセレモニーを通して、気持ちを消化し昇華させる必要があったのだ。

 

朝日が昇り、満月が光の中へと消えゆく頃には僕の心の中にあったわだかまりは、湖の水面のように落ち着いていた。

 

 
 
 
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